今回の旅で最も印象深かったレストランがここ、福1088。
古い邸宅を再利用した上海料理のレストラン。
オーセンティックな料理の完成度の高さに、中華料理とはこういうものかと呆然するほど感嘆した。
塩梅、切る大きさや形、温度、出汁であるスープの種類や使い分けなど、徹底的に突き詰められている。
料理とは芸術だなと感じさせられた。
それは皿の上を美しく装うことではない。
料理における芸や術はまず、口の中で発揮されるべきだと思う。
ただ、次回来た時に同じ状況かというと、この変化の激しい上海では、確実ではないだろう。
そして、こちらの偉いさんたちとの度重なる会食で、中華料理としての順序、地方性を活かせる料理の選択、季節感を反映させる経験で身につけてきたミキティのコースの組み立ても、満足度に大きく反映されていたと思う。
すべて個室。
1人頭頼むべき最低料金がある。
上海料理は甘い味付けが特徴で、ヘタをすると口飽きるのだそう。
ここのは甘さの中にあるまろやかな酸味や巧みな塩加減でバランスが保たれていた。
和食の煮物を思わせる麩の煮物。
酔っぱらい鶏。
上に凍ったスープがのせられて冷たいのだけど、柔らかくジューシィ。
揚げた白身の魚が滴るほどに甘辛いタレを蓄えていて、衝撃を受けた。
老上海薫魚。
フカヒレは濃厚なスープで。
キヌガサダケのスープは上品でクリア。
蟹粉自体は鼻血が出そうな濃さで美味しいのだけど、添えられたパンがいただけない。
パンなしで香酢を加えたりしつついただく。
東坡肉的なコレ、冷めたら固まりそうなほどこってりなタレ。
よくもまあ焦がさずに作れたもんだ。
豚肉はホロリとしていながら煮崩れておらず、適度な脂と上質な旨味だけを残していて重くない。
豌豆。
しっかりと調理しつつ、豆の青い美味しさを引き出している。
全てを切りそろえることで、歯ごたえや風味の違いがよくわかる。
黄魚の麺。
ゼラチン質のトロリとしたスープに漬物入り。
通常、中華のすゆい甘さのデザートは苦手で、初めて美味しいと思った。
金木犀と甘酒と餅の温かいデザート。
ここでは、普段あまり食指が動かないものの正解というか完成形を味わえて、美味しさに感動し、その料理自体が苦手なわけではないとわかった。
和食では京味、フランス料理ではランブロワジーで、自分的にそのジャンルの頂点と思える食体験をした。
それによって嗜好が明確になり、基準ができた。
中国料理で同様の体験ができて嬉しい。
結局、珍しい組み合わせや新しい試みよりも、伝統を突き詰めた料理が好きなのだなあ。
とはいえ、地方による違いが大きい中華料理では、他の地方の料理でももっと見聞を広げる必要があるだろう。
サービスのフルーツ。